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N3437BM-117
chuangchuang11
+α



「あいた」

ジルが僕に向かって小さなテディベアを投げた。
1歳になった頃の事。

「まあ。ジルちゃんどうして旦那様におもちゃを投げちゃうのかしら」

「ベルルにはしないのにな……これは完全に僕を狙っているな……」

「ふふっ」

ベルルは側に落ちたそのテディベアを拾い上げながら、クスクス笑った。

ジルは誰に似たのか相当なわんぱくで、おもちゃを与えると一度は僕に投げつける。
安定感の無いふらふらしたスウィングで、まったく痛くはないのだが。ただ投げた後に僕の元までよちよち歩いてやってきて、「あーうー」と声を上げる。
可愛らしく思わず抱き上げ背中を撫でると、僕にぺたんとくっついて突然「あっ」と大きな声をブーツ レディース
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上げたりする。
少し遠くから見ていた子犬姿のマルさんがその声に驚いて、耳をピクリと動かした。
側に寄るとジルがマルさんの尻尾を掴んで引っ張ってしまうので、いつも少し遠くから見ているのだ。

「よしよし、ジルちゃんはお父さんが大好きね」

ベルルが再びテディベアを与えると、今度はそれを握ったり裏返したりして、興味深気に見ていた。

こうやって我が子と触れ合う時間が、最近何よりの楽しみで、僕はすっかりジルの虜。
何かとものを投げつけて来るわんぱくだが、日に日に成長を伺う事の出来る我が子に目を見張るばかりである。

「ふふ、可愛い可愛いジルちゃん。そろそろご飯ね、旦那様」

「ああ。最近はよく食べるからな」

ベルルは僕の腕の中にすっぽり収まっているジルの頰を撫で、額にキスをした。
ジルはベルルの髪を掴んで引っ張る。

「あいたたっ」

「こらこら、ジル」

僕はジルのぎゅっとにぎられた拳を優しく開いて、ベルルの髪を解放。
赤子とはいえ、なかなか力があるからな。

「お母さんを困らせちゃダメだぞ、ジル。お前はお母さんを守る事の出来る男にならないとな」

「……あっ」

ジルは僕を見上げ、頷く様にして声を上げた。
おそらくたまたまだろうけれど。

その後隣の居間へ向かい、皆で昼食をとった。
ジルは、朝はまだミルクを飲むが、昼は離乳食である。

人参とホウレンソウ、ジャガイモを蒸してつぶし、鶏肉を細かくしてあえたものや、バナナヨーグルト。
ジルはスプーンを持って、それらと格闘するのだが、食いしん坊なので食事中は大人しく、ただただ自分の目の前の食べ物に夢中なのである。
ベルルが定期的にジルの前掛けで、口元を拭いてあげていた。

「美味しいか、ジル」

「……」

「一心不乱だな」

とは言え、そこそこ丁寧に食べる様になったジル。たまに手を使ってしまうが、最近はスプーンで食べようとする。
前まではそこかしこに食べ物を散らかさざるをえないようだったが、食器の扱いにも慣れて来た様だ。

「こんなに小さいのに、沢山食べるのねえ。やっぱり男の子だから? 旦那様もこんなに食べてた?」

「……さあ、どうだったんだろう」

流石に自分の赤子の頃の事は覚えていないが、ベルルは興味津々だ。

「ほほ、旦那様も食いしん坊でした。特にフレンチトーストがお好きで、それはもうガツガツと食べておられましたよ」

「……え」

サフラナが僕らの食後のお茶を持って来て、暴露。
何とも言えない恥ずかしさがあり、僕は紅茶をちみちみ飲みながら視線を逸らす。

「まああ。ならジルちゃんもフレンチトースト、好きかしら」

「もう少ししてから、与えてみましょうか」

黙々と目の前のものを食べるジルの側で、今後何を食べさせてみようかと吟味する母とばあや。
僕はその様子を、ただただ眺めていた。

そしてふと思い出すのだ。
前にディカがやってきた時も、果物が好きなディカに対し、ベルルとサフラナが何を好むだろうかと話し合ってお菓子を作っていた事を。

ディカは元気にしているだろうか……

彼女が魔界へと旅だって、もう2年近くが経とうとしていた。






食事の後、眠たくなってぐずついたジル。
ジルを抱え、背中を軽く叩きながら寝かしつけていた。

居間の隣の応接間の一つを、昼の間の子供部屋にしているのだが、ここ窓辺から秋晴れの空を見上げ、ぼんやりとしていた。
ジルはすっかり眠ってしまって、すやすやと小さな寝息を立てている。
呼吸をする度に動く、温かい我が子の体。こんなに小さいのにちゃんと生きているんだなと、当たり前の事を度々思い知らされる感覚になる。

「……おやすみ、ジル」

僕はジルをベビーベッドへ連れて行き、体を横たえ黄色の毛布をかけた。
そしてそっと部屋を出る。

「旦那様、ジルちゃんはもう眠った?」

「ああ。すっかり」

白いエプロンを身に着け、慌ただしくしているベルルが僕に問う。
貴族の妻だと言うのに、彼女は働き者なのである。

最近は冬に向け様々な保存食を作るのに忙しい様だ。

「少し休憩なさってください、奥様。あとは私がやっておきます」

「でも、まだ途中よ?」

「ええ。でもここからは単純な作業ですので。奥様は旦那様のお相手をなさってあげてください。ジル坊ちゃんが寝てしまって、さぞ退屈でしょうから」

「……」

サフラナのクスクスと笑って、チラリとこちらを見る意味深な視線。
いつも彼女には敵わない。

「わかったわ」

ベルルは素直に頷いて、僕の手を引いてソファへ向かう。

「ねえ旦那様、この前オリヴィアさんにベビー用品のカタログを頂いたの。ジルちゃんのお誕生日、何が良いか選びましょう?」

「ああ。オリヴィアの所は女の子だから、今後何かと大変だなあ……。お嫁に出したりとかなあ……」

「……?」

そう。オリヴィアとジェラルの所も、僕らの後に我が子を授かり、今年の春に女の子が産まれた。
赤毛の可愛らしい女の子だ。名前をソフィアと言う。
ジルとは同級生になるので、そのうち同じ魔法学校へ通う事になるかもしれないな。

「ねえ、旦那様見てちょうだい。このつみきのおもちゃ、とても可愛いわね」

「ほお、同じ形の穴に入れて遊ぶらしい。様々な形を覚えるんだな」

「あ、見て、こっちの子馬のお人形も……。あ、こっちの音の出るボールも……」

「これは何だろうか」

ベルルと共に、ジルに与える新しいおもちゃを吟味していた。
僕もベルルも、ジルの事になるととても落ち着きが無くなる。

僕はベルルの肩を抱いて、彼女は僕の肩に頭を置いて、二人でこうやって我が子の事を考える時間が幸せだ。温かい家族がここにあるのだと思わされる。

自分の父や母の様に、立派な父になれるだろうか。僕はたまにそんな事を考える。

グラシス家の父になれるだろうか、と。
ジルはこの家の魔法薬を背負う子供になるだろうから、彼を育てる僕の責任は大きい。

だけど今はまだ、我が子の成長に驚かされてばかりだ。






ベルルが再び夕飯の支度で台所へ行った後、僕は居間で一人新聞を読んでいたが、ふいに隣の部屋から笑い声が聞こえたので、ジルが起きたのかなと思って部屋を覗きに行った。
しかし、起きたら大声で泣くはずなのに、笑うと言うのは珍しいな。

「……」

部屋へ入ってすぐ分かったのは、この部屋だけ少し空気が澄んでいる気がすると言う事だ。
何故だろう。

ジルは確かに起きていて、ベビーベットの上でじたばたしていた。

「どうしたんだい、ジル」

「あーうー」

ジルは何かを持っていた。
僕はそれを見た時、とても懐かしい気持ちになる。

「金の鱗……?」

黄金の鱗を一枚だけ持って、ジルは嬉しそうにきゃっきゃと笑っていたのだ。
まさか、と言う気持ちが溢れてきて、僕は居てもたっても居られなくなる。

もしかして、ディカ、ここへ来たのかい?

僕はジルを抱き上げ、目を伏せた。
そして、そのまま廊下へ出て、中庭へ向かう。
ただただ、気の赴くままに。







やはりそこには、黒い顔の妖精と、金色に光る鱗粉と、小さな少女が居た。
少女は懐かしいこの庭の、草の柔らかい所に座り込んで、妖精たちと戯れていたのだ。

「……ディカ」

ああ、ディカだ。
初めてこの庭であった時と、同じ場所に居る。

僕は霞む眼を何度か瞬きさせ、ディカに近寄った。
ディカも僕に気がついて、立ち上がる。

「ディカ、おかえり、ディカ」

「……おとう……さん?」

ディカは変わらない小さな高い声音で、僕を呼んだ。
そして、ててっと寄って来て、僕の足にしがみついて顔を上げる。

「ディカ……ディカ……っ」

僕は何度もディカの名を呼んで、頭を撫で、しゃがみ込んで彼女を片腕で抱いた。
ディカもまた僕の首に手を回し、頬擦りして、耳元で「ただいまっ」と呟く。

「良かった。……良かった、君が帰って来てくれて。いつ戻ってくるんだろうかと、心待ちにしていたんだ。会いたかったよ……ディカ」

ディカの目をちゃんと見て、そう伝えた。ディカは小さく微笑むと、目を潤ませコクンと頷く。

「ディカも……会いたかった、おとうさん」

僕はそんな彼女の頭を、再び優しく撫でた。
ディカは自分の方に手を伸ばすジルに興味を向けた。

「ああ、ディカ。ジルだよ。……そうだね、君の弟になるかな。ディカはお姉さんだね」

「……ジル」

「そう」

「しってる……おとうと」

ディカはジルの頭をそっと撫で、そして、頰に頬擦りした。
ジルはきゃっきゃと笑っている。どうしてだろうか、この二人はいつの間にやら、とても仲良しだった。

「ジル、かわいい……」

ジルの頰をちょんちょんとつついて、ディカは僕を見上げてそう言った。

「ディカ、おねえさん?」

「そうだよ」

「……」

しばらくジルを見つめ、頭を撫でたり頰に触れたりしていたが、そのうちに僕にぺったりくっついて、甘え始めるディカ。

「ディカも……」

僕に抱き上げられたい様で、両手を広げた。
僕は「ああ良いよ」と言って、もう片方の腕で彼女を抱える。ディカはとても軽いので、さほど大変ではない。

「一緒に居間へ行こう。きっとベルルも喜ぶ」

「おかあさん?」

「ああ。お母さん、きっと泣いちゃうな」

「……泣いちゃうの?」

ディカが心配そうな表情をしたので、僕は苦笑。

「嬉しいから泣くよ、きっと」

「……」

ディカは目を丸くさせ、後からこっくり頷いた。何だか少しばかり、照れくさそうに。
ジルがディカに手を伸ばす。ディカはジルの手を取って、小さく楽し気に振っていた。

そんな二人の我が子をこの腕に抱いて、僕は中庭から空を見上げる。夕焼けの空だ。
東の最果ての国を思わせる。とても懐かしい匂いがする。

ああ、なんて素敵な日なんだろう。
そう思わずにはいられず、大きく息を吸った。






「ディカちゃん!! ああ、ディカちゃん。……うう……っ、ああう〜……っ」

「ほら、お母さん泣いちゃっただろう?」

ベルルはディカを見た途端、やはり号泣。
ディカは僕の腕から居りて、ベルルの腕の中へ一直進。二人はひしと抱き締め合っている。

「まあ、ディカ、帰って来たのね!」

「案外早かったな」

マルさんとサンドリアさんも、ディカが帰って来たと聞いてこちらに現れた。
ローク様も「やれやれ、やっとか」と、僕の肩に乗ってため息。ちなみに皆小型獣。

「あーあー、あいっ」

「ん? どうした、ジル」

ジルは手を振って、嬉しそうに笑った。ここに居る皆の嬉しい雰囲気を感じ取ったのだろうか。

「ディカちゃん、もうここに居られるの?」

「……」

ディカは一度首を傾げ、振った。

「たまに、まかいかえる」

「なら、基本はここに居られると言う事か?」

「うん……そう」

ディカはコクンと頷いて、嬉しそうに笑った。
彼女にしては、満面の笑みと言えるだろう。

僕とベルルはお互いを見て、頷き合った。

ああ、嬉しいね、と。
ここに僕ら家族は、皆揃っているのだと。

優しい時間はまだまだ育む事が出来る。
それは子供たちの成長と共に。

僕とベルルはその幸せに身を置きながら、時に我が子の事で悩みながらも、沢山の事を彼らに教えられ、一緒に成長していきたいものだ。



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chuangchuang11
Sense142

 人を避けるように、目立たない裏路地へと一本入れば、人の足音や話し声が遠くに聞こえる。そのまま、音から離れるように歩けば、NPCの集まる小さな広間とベンチへと辿り着く。
 丸太を縦に切って作られた簡素なベンチに腰を掛け、溜息を吐き出す。
 今日の予定は、オークション。そして、夕方に生産職限定のPVP・マイスタークラス。
 明日は、一日を通して、一番盛り上がるであろう戦闘職のバトラークラスと総合部門であるマスタークラスのPVPが予定されている。俺は、マイスターのみの参加予定だから、明日は見ることに専念しよう。

「今は、何も考えずに……」

 そう言えば、まだフィオルさんの創作スイーツが一パック残っていた。
 周囲には誰も居ないし、空腹度も僅かに減っている。今の内に腹ごしらえをしよう。
 取り出した包みを広げると、収めた時と全く同じ状態で出てきた。それを爪楊枝で突き刺し、口許に持って行こうとするが、マスクの存在を忘れていたために、マスクの下から食べる。
 危うく、マスクとチugg classic mini
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ョコレートソースが接触するところだった。
 創作スイーツの味は、丸型のベビーカステラのような感じだ。中身は、イチゴジャムでチョコレートソースの甘味とジャムの酸味が甘さ控えめの生地とよく合う。
 時折、購入しては自分で作るハーブティーも取出し、先ほどの溜息とは違う息が零れる。

「ベンチにお菓子とお茶を持ち込んで休んでいる仮面の男ってどう見られるんだろうか?

 まぁ、決して好意的では無いにしろ。奇異の目で見られそうだ。だからこそ、裏路地の人の居ない場所を選んだんだ。
 そして、トラブルという物も、常に人の居ない場所へと集中するものだ。

「――ら、約束の――」
「――確か、うけ――」

 遠くで聞こえる喧騒とは違う。どこかくぐもりながらも断片的に聞こえる内容。怪しい取引現場のような会話に好奇心が刺激される。
 一本隣の路地。左右の建物が迫り来るような形で影を落とす場所。マスク越しに静かに見ていた。

「――他にも、来るぞ」
「ああ、ポーション類は、しばらくは大丈夫だろう。約束通り、手数料と俺らにとってはゴミアイテムだ」
「全く。バレた時のリスクが大きいっての。今回限りで頼むぞ」
「馬鹿言うな。お尋ね者同然の俺たちに手を貸した時点で、お前も共犯だろ」
「ひでぇ……。まぁ、この装備ならスタートダッシュする分には、悪くないだろ」
「お前はそれで良いさ。俺たちは、俺たちでやるだけさ」

 相手の会話を聞く限り、取引相手は、ギルド【獄炎隊】か【フォッシュ・ハウンド】のどちらかだろう。
 スタートダッシュ、という単語から考えるに取引相手は、第二陣のプレイヤー。
 ただ、情報が足りないな。奴らが別れた。第二陣プレイヤーがこっちに来た。
 慌てて、路地の死角へと移動して、その後を尾行する。
 防具の【認識阻害】が働いたのか、そのまま気づかれずに素通りされる。その後ろ姿と路地の向こう側に居るプレイヤーを交互に見て、どちらを追うか、考える。

 第二陣の方は、利害で動いている面が有りそうだ。単独だから上手く立ち回れば、情報が手に入りそうだ。
 そしてギルド側は、直接何をするか、を調べることが出来るだろうが、複数人のプレイヤーを相手にする。こちらはリスクが大きい。

「まぁ、安全安心の方へと行くかな」

 話を聞いたら、即PKって感じじゃなさそうな。第二陣のプレイヤーの後を付ける。
 真っ直ぐに、表通りの人の波に入り込みそうだったために、少し足を速めて、後を追う。
 人の中に紛れたために、少し見辛くなった。こういう時は、自分の身長がもう少しあれば、高い視点から見えるのに。と思ってしまう。
 これ以上見失うのは、不味いと思い、更に足を速めて、路地裏から飛び出した――。

「――きゃっ!? 痛っ! いきなり飛び出さないでよ!」
「大丈夫。ライちゃん? って、もしかして師匠?」
「あ、ああ。すまない。余所見をしていた。久しぶりだな」

 ぶつかった人物は、まぁこれもまた見知った人物。
 レティーアと良いこの双子の兄妹と良い。今日は、何かと縁のある日だ。首を巡らして、追っていたプレイヤーを探すが、もう人の中に紛れてしまい、完全に見失ってしまった。

「ううっ……折角、今まで稼いだお金の余りで買ったジュースが」
「えっと……ライちゃん。僕の分けてあげるから」
「なんか、本当にスマン。買い直すぞ」
「ありがと」
 
 道端で打ちひしがれているライナとその視線の先には、落ちたカップと零れるジュース。
 俺がぶつかったのが原因なために、素直に弁償する。
 ライナとアルを連れて、同じジュースを買い直す。この時点で、もう追う事は諦めた。

「シショー。何をそんなに急いでいたのよ」
「いや、少し慌てていてな」

 まぁ、嘘は言っていない。人ごみに入って見失いそうになったから慌てたら、衝突して完全に見失った。まぁ、なんか、怪しい動きがあった。って事はこっそりメールなんかで生産職の知り合いに送った。まぁ、返事は後で貰うとしよう。

「それにしても、二人とも。大分装備が変わったな」
「ふふん。そうでしょ! 今まで二人でずっと狩りを続けてコツコツ貯めたお金でさっき買ったのよ!」

 嬉しそうに、自分の腕に着けられたバックラーを嬉しそうに撫でる。そして、武器は、小回りが利く短槍へと変えたようだ。防具に関しては、藍色に染められた皮鎧。女の子が着るには、ちょっと武骨なデザインだが能力優先ならば別にとやかく言う必要はないだろう。
 アルの方は、完全に防具は、後回し。年季の入ったような杖に首には、INTの基礎値が高い種類のアクセサリー。
 完全に、魔法使いの道を歩むようだ。

「でも、見たかった物も見れなくて残念です」
「見たかったもの?」
「オークションよ。オークション。どんな風に行われるかとか、どういうアイテムが幾らかとか、アルが見たがってたんだけどね」

 ちょっと視線を逸らして、頬を爪で掻くライナ。

「ライちゃんの装備が予算よりちょっと高かったからオークション見学のための費用を使ったんですよ。だから、次の機会にお預けです」
「オークションが先でも良いって言ったけど。アルが後になってなかったら困る。って買ったのよ。お金が戻ってくるんだし」
「あー、たしか。そんなルールだったな」

 一通り、クロ―ドからレクチャーを受けたオークションの使い方は、入場料の1万G支払い、オークション会場に入る。そこで、一度でも手を上げれば、そのまま入場料は、払い戻される。一度も手を上げずに過ごした場合、支払った1万Gは戻ってこない。いわば、オークションの場を活性化させるための方法だ。
 入場で一万払い、一度でも手を上げれば、戻ってくるなら、無理にでも手を上げる。すると最低入札価格は、上がる寸法だ。
 手が多く上がることで、場が盛り上がり、活性化する。
 他にも、値段の釣り上げ方の細かいルールは、その場でもNPCから聞けるためにその時は聞き流した。
 そして、入場には、一つ。特別なルールがある。

「なら、俺と一緒に入るか?」
「シショー。哀れに思って入場料を自分が出すとか言ったら怒るわよ」

 ジト目で睨んでくるライナ。別にそんな事は無いが、先輩面をすることになっているのは、事実だ。

「入場のもう一つのルール。出品者を含むパーティー六名までは、出品側で参加可能だ」

 これは、個人の生産職ではなく、ギルドやパーティー向けのルールだ。パーティーやギルドで保有する共有している強化素材などのボスのレアドロップやイベントでのユニークアイテムを売る場合、関係者がその売り買いの現場を見ることが出来るように、としたルールだ。勿論、観戦以外にも入札の参加も許されている。

「と、こういう出品者向けのルールもある。今回はそれを使って入る」
「あー、師匠って生産職だったわね。わー、凄い。ポーションの一円オークション?」
「ライちゃん、声に感情籠ってないよ。例え、安いアイテムでも出店すれば、入場料を払ったのと同じなんだから」
「お前ら……。俺を何だと思っている」

 そんなどこぞのネットオークションの最低価格開始なんて……。ギルド側と言うよりクロードが即効弾きそうだ。

「お前らの俺への認識がどういう物か……小一時間問い詰めたい気分だ。で、どうする? 行くか?」
「えっと……その反応は、ホントにホント?」
「だから、出展するからその様子見も兼ねて行くんだ」
「行きます! こういうのを渡りに船って言うんだよね。ライちゃん」
「アル……変わり身早いわね。呆れているわよ」

 いや、お前らが最初に疑って掛かったからだ。とは言え、この反応は案外普通なのかもしれない。
 ネット上では、いくらでも虚言を吐けるし、自分をリアル以上に着飾ることも出来る。
 逆に、自身のキャラも着飾る事が出来る。
 実態の伴わない虚飾塗れって事もあるなら、相手を疑うのも必要という事だろうか。甘い事を言う奴ほど信用するな。と言う事だろうか。

「まぁ、行くとするか」

 別に欲しい物は、特にないが、アクセサリーなどは今後、作成するときに、能力やデザインなどを参考にしたい。
 目の保養という意味では、アルやライナと目的は同じだろうか。
 俺たちは、大通りの一番目立つ所にある生産ギルドへと辿り着いた。

 周囲の建物の倍の大きさの三階建ての建物は朱塗りの柱と看板。少し品のある細部の作りなどは、構想から制作、設立まで数か月と言う時間とあり得ないほどのゲーム通貨が使用された。
 まずは、設置場所を決める。ギルドの拠点であるギルドルームは、基本、ゲーム特有の質量保存無視の亜空間が広がっているために普通の家程度の外見だが、見た目から拘り一番目立つ場所の建物三軒をレンタルから買い取り、俺の【アトリエール】建設と同じような建設クエストを発生させて、三軒全てを更地にして、その上に作り上げる。
 そこまでに一人の所持金では、賄いきれないほどの通貨が動き、設立された目立つ外部。中身は、より凄い。
 最大限まで亜空間が拡張されたギルドルーム。外部の受付カウンターでは、NPCが忙しなく働き、素材や商品の売買を行っている。また個人で生産設備が間に合わない人のための共同生産所なら誰でも生産が行える場所だ。ただ設備自体は低いランクの物である程度、自分で稼げたなら後は自分で揃えて貰う。いわば、生産の体験や初心者支援だ。
 そして、二階は、亜空間が広がるオークション会場。三階が会議室などの多目的施設。

 その姿に圧倒される二人は、口を広げて見上げている。

 現実では、この大きさの建物は別に不思議じゃないだろうに。もっとも、建物の外見と釣り合わない数の人間が出入りする様子を見ると、違和感は感じなくは無い。

「ほら、何時までも惚けてないで、入るぞ」
「「あっ! ハイ!」」

 まぁ、また入り口から中に入って外観と内部の差にもう一度惚け、オークション会場に入る時と合計二回は、立ち止まった姿に、マスク下で苦笑を浮かべた。


N0771E-78
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第二部 5.生と死の境界線-5

 扉が引かれたとたん、ゴーティスは、近衛の体の向こう側から、床を滑るようにして自分に突進してくる白い物体に目を奪われた。部屋の二隅が照らされているだけの暗い部屋で、ゴーティスはその正体を見極めぬまま、ほとんど反射的に剣を引き抜く。
「何……者!」
 体は自然に臨戦態勢に入り、両手は勝手に剣を構える。
「マーマ!」
 ゴーティスが、ひらひらとはためく白い布の下に二つの瞳を見つけたのと、その下にある小さな唇がそう叫んだのは、ほぼ同時だ。女の脇をすり抜けた白い布の塊が、ゴーティスの正面で急停止する。
 全てのものを見通すような、先王と同じ緑色の瞳――カロリーヌだ。
 息を詰め、ゴーティスは今にも振り上げようとしていた手を止めた。
 喉に詰まっていた息を一気に吐き出しながら、ゴーティスはカロリーヌから視線をそらさずに、剣をゆっくりと下ろす。彼女の瞳を見つけるのがあと一秒でも遅ければ、ゴーティスの剣は彼女の体を真っ二つに切り裂いていた。
 不審者でなかったことをゴーティスは安堵するが、同時に、いっそのこと、娘を剣で斬り殺してしまえなかったのかと、若干の口惜しさを覚えた。
 カロリーヌはジェニーが愛する娘ではあっても、ゴーティスにとっては、いなければよい人間だ。この幼い娘に、愛情を抱いたことはない。亡くなった先王に通じる、カロリーヌが持つ一種の神々しさも、ゴーティスは苦手としている。
 娘の死を出会い頭の不幸な事故として片付ければ、誰からも文句は出まい。しばらくは城中の皆が悲しみに暮れたとしても、いずれ、彼らは庶子のことなど忘れ去ってしまうだろう。
 ゴーティスの邪悪な思惑など知グッチ バッグ 新作
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らず、カロリーヌは首にからまる白い布を邪魔そうに引っぱると、ゴーティスの足の上に放り投げた。ゴーティスはむっとし、彼女を見下ろす。
「マー? マー……?」
 カロリーヌは、きょろきょろと扉の周りに視線をさまよわせた。母親を探しているのだ。それから、カロリーヌはゴーティスを見上げ、頬の上に落ちそうなほどに瞳を大きく見開いた。
 カロリーヌの上気した赤い頬には涙の跡がいっぱいだ。髪は全体的にしっとりと湿っているが、耳の脇にある髪が濡れ、顔にべったりとくっついている。かなりの長時間、カロリーヌは泣き続けていたようだ。
「離れろ」
 大人には効力のあるゴーティスの眼力が、子どもには効き目がないようだ。ゴーティスの不機嫌な瞳に合っても、この幼い娘はまったくひるみもしない。彼の剣は、まだ鞘に納められていないというのに。

 ふと、カロリーヌの視線が彼女の頭上にある剣に移った。それから、彼女は何のためらいもなく、剣の切っ先を手でつかもうとした。
「触れるな!」カロリーヌの大きな瞳は動揺したように揺れ、そして、あっという間に涙であふれた。「これは遊び道具ではない」ゴーティスは叫び、剣を持つ手を上げた。
 カロリーヌの唇が小刻みに震え、ゴーティスは彼女が大声をあげて泣き出すのかと、うんざりした。彼女の泣き声を間近で聞いたことはないが、それがどんなにはた迷惑な音量か、女官長や大臣たちから聞いて知っている。
 ところが、カロリーヌは泣き声をあげなかった。無言で大粒の涙を流し、ゴーティスに慰められるのを待つように、彼をじっと見上げている。
 ゴーティスは静かに剣を納め、小さな娘を見下ろした。目の縁にたまった涙が照明に照らされて光っている。睨みつけても、彼女はまだ言葉を発せず、ゴーティスに何かを訴えるような視線を返すだけだ。
 彼女の視線に対するにつれ、苛つきが増す。世話係の女たちはその場の緊張感にのまれているのか、二人の間に割って入ろうともしない。
「オオ……オウ?」
 カロリーヌの口から洩れた声に、ゴーティスは一歩退いた。すると、彼女はゴーティスの足にもたれかかるようにして、彼の膝に両腕を回した。
「……どけ」
 カロリーヌはゴーティスの足を放すどころか、その脛にまとわりつく。
 大事な息子を守るように包み込む、やわらかな腕の感触。――また、母の優しい腕の幻が、ゴーティスに触れる。
 母に懐かしさを感じることに、ゴーティスは狼狽した。
 カロリーヌもろとも母の記憶を蹴散らそうと、ゴーティスはつま先に力をこめ、彼女の体を浮かそうとした。が、カロリーヌはゴーティスの足の上に、すとんと腰を下ろしてしまう。
「女」ゴーティスは手近にいた世話係を呼びつける。「この娘をどかせ」
「は、はい! ただいま!」
 駆け寄った女がカロリーヌを抱き上げようとすると、
「イヤァ!」
 カロリーヌはゴーティスの膝とふくらはぎにぎゅっと抱きつき、激しく首を左右に振って抵抗した。ゴーティスがむっとして足を振ると、彼女はやにわに笑い出し、ゴーティスを見上げた。
 ゴーティスは通常、小さな子に好かれることはない。子どもたちは小さいながらも、彼の放つ威圧感に気圧されるのだ。なのに、この娘ときたら、なんと怖いもの知らずなことか。
 恐れを知らないという意味では母親ジェニーと同じだが、ゴーティスにはカロリーヌの行動がいちいち腹立たしい。これがケインの娘でないならば、もう少し態度を軟化できたかもしれないが。

 カロリーヌの手がゴーティスの膝の裏をたたいた。
「オオ」
 唐突に、彼女が何回か口にしていた言葉が、「王」、つまり、自分を示すものだと、ゴーティスは気づく。
 冷風が背中を駆け抜けた。
 この娘に……自分の存在を覚えてもらいたくはない。
 真っ白に見える、産毛のような頭髪、明るい光を散らす緑色の瞳。瞬きするたびに、濃く長い睫毛が存在を主張する。
 カロリーヌを近くで見れば見るほどに、きれいに整った顔の造りだ。成長すれば、各国から引く手あまたの美しい娘となるだろう。いずれ、ヴィレールにとってもっとも良い条件を提示する国の王子に、彼女を結婚相手として引き渡せばいい。
 利用価値のある娘。彼女はただ、それだけだ。
 ゴーティスは一語一句、はっきりとした発音で言った。
「おまえはもう言葉がわかろう? 怪我をしたくなくば、そこからどけ」
 カロリーヌはぽかんと口を開けていた。その口の形がジェニーそっくりだ。カロリーヌに疎ましさを感じながらも、ゴーティスは彼女を抱きしめたい衝動にかられ、自分の感情をもてあます。
「どけ、と言うのが分からぬか」
 だが、カロリーヌは意味不明の言葉を何か呟きながら、ゴーティスに向かって手を伸ばした。瞳には涙の粒が光ってはいるが、彼女は笑ったままだ。
 ゴーティスは彼女の小さすぎる手を見つめた。
 前回、彼に伸ばされたその手を、ゴーティスは取らなかった。
 それは幼子の手であるが、単なる子どもの手ではない。カロリーヌの手を取ることは、母やケインを受け入れ、許すことだ。それは、ゴーティスがずっと抱いてきた裏切り者たちへの思いを否定し、彼らに屈服する気がする。
 ジェニーと通じた男をどうして許せよう?
 「母を許せ」という、ゴーティスにとって尊敬に値する父の頼みでさえ、ゴーティスを説得できはしない。
 カロリーヌは満面の笑みをたたえ、ゴーティスに握ってもらえるのが当然というように、手を差し出している。
 ――誰が、その手を取るものか。

 ゴーティスが沈黙を貫いていると、いきなりカロリーヌが飛び跳ね、彼が腰に当てていた手をつかんだ。咄嗟にそれを払いのけようとして、だが、カロリーヌの体温を感じたゴーティスの手は、不意に、抵抗する気を失った。
 カロリーヌの小さな両手に引きずられるままに、ゴーティスの手は腰からあっさりと離れてしまう。彼女が喉の奥で声を転がすようにして、愉快そうな笑い声をあげた。
 カロリーヌとゴーティスの目が合った。
 ただ楽しそうに、真っ赤になって笑っていたカロリーヌの顔が、ゴーティスを見つめながら、ごくゆっくりと、親しみをこめた微笑みに変わる。子どもらしくない笑顔だ。母親ジェニーの笑顔とは異なる。
 どこかで見たような笑い方だったが、さっぱり思い出せない。だが、それを見ると、ゴーティスの胸には、何か熱いものがぐっと迫ってくる。

 目に見えない不思議な力に誘われるように、ゴーティスはカロリーヌの両脇の下に手をいれ、彼女の軽い体を持ち上げた。不思議に、カロリーヌの感触はゴーティスの手にも違和感がない。カロリーヌは笑顔だったが、さっきまでのような無邪気な笑い声をあげなかった。
 猫が喉を鳴らすようにカロリーヌが低くうめくと、誰かが、ひそかに息を飲む音がゴーティスの耳に聞こえた。
「……そこにおるのは誰だ」
 ゴーティスは振り返りもせず、わずかに開いている扉の向こう側に静かに問いかけた。すると、また、誰かが小さく息を吸い込む気配が伝わってきた。
 数分前から、誰かが扉の外で室内の様子をうかがっていることを、ゴーティスは勘付いていた。それが、おそらくは女だということも。
 ゴーティスはカロリーヌを左腕に抱き、腰にある剣に手をそろそろと伸ばす。近衛の男もそれに倣った。不審者が小城に潜んでいるとは思いたくなかったが、先日のジェニー毒殺未遂の一件から、ゴーティスはいつも意識のどこかで、暗殺者の出現を警戒している。

 近衛の男が扉に手を触れたとき、扉は外側から押されて開いた。そして、女の白い服の裾が、扉の中にさっと進入してくる。
「私よ」
「マーマ!」
 ゴーティスの腕の中で、カロリーヌが興奮して暴れた。ゴーティスに留まった女の視線はカロリーヌに動き、その微笑に出会って、甘く溶ける。
 ゴーティスは、扉をすり抜けて入ってきたジェニーを見つめた。今夜はずっと血色の良くない顔色をしていたが、まだ青白い顔をしている。真冬に着るような分厚い上着を羽織っているが、内履きからのぞく素足はいかにも寒そうだ。
 ゴーティスは、やっと母に会えて狂喜しているカロリーヌを苦々しく見つめた。ジェニーに、カロリーヌを腕に抱くこの場面を目撃されたくなかった。
「眠っておるものとばかり、思うておったが」
 カロリーヌに手を伸ばし、ジェニーが弱々しく笑った。
「あなたこそ。部屋にいなかったから、もう帰ったものだと思ったわ」
 ジェニーの口調や表情から、それが嫌味でも文句でもないことはゴーティスにもよく分かった。どちらかというと、彼女は小城に残っているゴーティスに会い、ほっとしているように見える。
「朝まで城に戻りはせぬ」
 カロリーヌにしがみつかれながら、ジェニーが嬉しそうに笑った。

 ジェニーの手に渡ったカロリーヌは、目を輝かせて、早口で何かをまくしたてていた。そのほとんどが意味をなさない言葉の連続だったが、ジェニーには娘の言わんとする内容が全て理解できているようだ。娘を見つめるジェニーの眼差しは、ゴーティスが今までに目にしたことがないほど、とてつもなく優しい。
 カロリーヌの部屋でジェニーと遭遇した気まずさに加え、軽い嫉妬を覚えて、ゴーティスは母娘から目をそらした。
「待って、ゴーティス王」
 黙って部屋を去ろうとしたゴーティスは、ジェニーに声を掛けられて振り返った。
「俺は部屋に戻る」
「待って」ジェニーが再び引きとめる。「私がこの子を寝かしつける間だけ、もう少し、ここで待ってて。泣き疲れてるから、きっとすぐに眠ってしまうわ」
 待つ時間の長短は問題ではない。
 冗談ではない。いまいましい幼子の部屋で、彼女が眠りにつくまで時間をつぶして待て、と?
 ジェニーの無神経で身勝手ともいえる頼みに、ゴーティスは憤慨した。ジェニーは、ゴーティスに依頼しているというより、一方的に通告しているだけだ。それがまるで、彼の義務の一つかのように。
 ゴーティスが娘を嫌っていることぐらい、ジェニーは知っているはずだ。ゴーティスが小城でジェニーと過ごす際、彼は必ず、カロリーヌを二人から遠ざけておくように命じている。
 だが、ジェニーの頼みをはねつけようと彼女を見て、ゴーティスはそれが叶わないと悟った。ジェニーはカロリーヌをあやすように体を揺らしながら、白金色の娘の髪に頬をくっつけて、小さな子どものように笑っている。その幸せそうな顔を見せつけられれば、ゴーティスはもっと長く、そんな彼女を見つめ続けていたくなるだけだ。
(仕方あるまい。今宵はジェニーが主人の夜だ)
 寝所でジェニーに腕をまわしながら、彼女に請われるままに、話をしていた数時間をゴーティスは思いおこす。
 今日のジェニーに、ゴーティスは抗えないらしい。


 カロリーヌが規則的な寝息をたてるまでに、ゴーティスが気を揉むほどの時間は必要なかった。幼い娘は母親の顔を見て安心したのか、ものの数分もしないうちに、深い眠りに落ちたからだ。
 世話係の女たちに娘を託した後、ジェニーはおそらく心残りだったろうが、ゴーティスとともにカロリーヌの部屋をあとにする。ゴーティスもジェニーも、近衛二人も無言だったが、気詰まりな沈黙ではなかった。
 一行が階段に差し掛かったところで、ジェニーが立ち止まり、壁についた最上段の装飾窓を見上げた。正面玄関の対面にある本階段には、月光が幾筋も斜めに差し込んでいる。空気中に舞い上がった埃が月明かりに照らされ、光を発しながら、大理石の冷たい階段に向かって落ちていく。
「あれは、女神エクリシフェなのね」
 ジェニーの指差す窓枠には、真下の階段に半身を乗り出すようにした女の彫像がついている。頭のてっぺんに付いた透明な球に月光が乱反射して、複数の細かい光が天井に様々な模様を作っている。
 ゴーティスはジェニーに指摘されるまで、女神像の存在をすっかり忘れていた。月の明るい夜、月光を屋内に取り入れて楽しめるようにと、先王妃が特別に造らせた、月の女神エクリシフェ像。
 ゴーティスは像から顔をそむけた。
「そうだ。ヴィレールに生まれたのではないおまえが、よう知っておるな」
「父に……よく聞いてたのよ」
 ちなみに、とある地方の言い伝えにすぎなかった、幽閉されていた自分の娘を月の神が救出する話を、神話にまで高めて国中に広めたのは、先王妃だ。ゴーティスが生まれる前、教会の力が強かった当時だからこそ為しえた、荒業(あらわざ)だ。
「あのお話は好きだったわ」
 ゴーティスは嫌いだった。
「俺はこの女神が好きではない」
 ゴーティスが女神を嫌う理由は単純明快だ。エクリシフェの女神像は先王妃を模造しているとも言われ、その名を聞けば、ゴーティスは母をいやでも思い浮かべる。

 ジェニーが女神像をしばし眺めたあと、ゴーティスを見つめた。
「ゴーティス王、あなたの母親って、どんな人だった?」
 ――その手の質問には、数年来、答えていない。いや、先王妃が罪人として死んだ事実を知る者は誰も、ゴーティスにその質問を投げかけないので、答える機会に恵まれなかったともいえよう。
 ゴーティスは階段の先に立つ近衛たちに振り返った。「おまえたちのどちらか、先王妃について説明してやれ」
 だが残念ながら、両名ともが非常に強張った顔で口をつぐんだ。それをみとめ、ゴーティスは笑いを押し殺した。
「ゴーティス王」と、ジェニーがゴーティスに近寄り、腕に触れた。「私はあなたに訊いてるのよ?」
 ゴーティスは彼女に負けず劣らず、不機嫌な顔を作ったつもりだ。
「おまえも、先王妃が夫殺しの罪で処刑されたことは知っておろう。ほかに何が知りたい? ……大司教と姦通したことか? 王家の土地をいつのまにか実家名義の土地にしておったことか? それとも、王位を継ぐ気のない王子に何度となく毒をのませたうえ、自害に見せかけて殺そうとしたことか?」
 ジェニーは虚をつかれたようで、何も返答しなかった。当然だ。
「あの女は俺に王位を継がせたくなかったのだろうが、先王が身罷られたことによって、その当時ただ一人、成人だった俺が跡目を継いだ。俺を放っておいてくれれば、俺はいずれ王家を出るつもりでおったのに。
 だが、ともかく、先王の身罷られたその夜、俺はヴィレールの王となった。俺は、なんとしても、その夜が明けるまでに先王を死に至らしめた犯人をあげたかった。実際、翌日の正午までには、事件に関わった全ての者を断罪した。無論、先王妃も含まれておるが――俺の死を願っていた女が、俺によってその一生を終わらされるとは……なんとも皮肉な話であろう?」
 ゴーティスは、最上部の窓で、月の青い光を浴びているエクリシフェ像を眺めた。あの当時の母親が持ち合わせていた勢力を思うと、その窓は小さく狭く、彼女にはとても窮屈そうだ。
 だが、月光がなければ存在感もないエクリシフェの像は、実は、王妃の本来の姿に似ている。
 彼女自身に力はなかったのだ。彼女にあったのは、虚栄心と、都合よく夢を見る能力。
 彼女は、ゴーティスが同情してやる対象なのかもしれない。

 ゴーティスの指に、ジェニーの冷たい指がからんだ。
 ゴーティスが女神像から目を離すと、ジェニーが唇の端を小さく上向けるようにして微笑んだ。彼女には、ゴーティスへの同情心は見えなかった。
「冷たい手だ」
 ゴーティスがジェニーの手を握ると、彼女が小さく笑った。
「あなたの手が温かいから、いいじゃない」
 ふん、とゴーティスは鼻を鳴らす。「それとて、俺は常におまえの手を握っておるわけにはいかぬ」
「そうね」
 ジェニーの冷たい手がゴーティスの手を握り返し、どちらからともなく、二人は唇を寄せ合う。

 ゴーティスは再び、てっぺんの窓で孤独に耐える女神像を見上げた。当然だが、彫像は動かず、何も語らない。こちらがいくら声を掛けようと、反応することはないのだ。ゴーティスの頭にちらりとよぎった同情すら、一切通じない。
 急に、一抹の寂しさがゴーティスの胸にこみ上げてくる。

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ⅳ搿?
他には、これといった動作はしていない。
それなのに、美由紀はいつにないほどの反応を示した。
そう、まるで、源次郎が何かを仕掛けたかのようにだ。

ふと見ると、薄いスリップらしき着衣の上からでもそれと分かるほどに、美由紀の左乳首は勃起していた。
今にもその薄布を切り裂きそうに思えるほどだ。
昨日まで、これだけ勃起したのは見たことが無かった。

「だ、大丈夫です?」
源次郎が囁くように訊く。心配になったのだ。
いつもであれば、乳房への刺激の強弱は美由紀がコントロールしてくる。
だから、源次郎とプーマ靴
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しても、その指示に従ってさえおれば、さほど美由紀の反応自体を気にする必要は無かった。
だが、今夜はそのコントロールが無い。
言わば、源次郎の匙加減に任されていた。
つまりは、源次郎の対応次第ということになる。

その結果としての、異常な反応である。
源次郎が自分の責任だと考えても不思議ではなかった。

「??????。」
美由紀は、黙って何度も首を横に振る。
まるで、嫌々をする子供のようにだ。

(ん? そ、それって???、ど、どういう意味です?)
源次郎は戸惑う。
首を横に振るってことは、普通に考えれば「いや、違う」という意味だ。
それが、源次郎が「大丈夫ですか?」と問うた答えとして向けられたのだ。
「いや、大丈夫じゃない」なのか、「そういうことじゃあない」という意味なのか。
これだから、女の子は分からないのだと嘆きたくなる。


源次郎は、時間を数分だけ巻き戻してみる。
美由紀のその反応に至った経過を思い出そうとした。

それまでは美由紀の左乳房に手を添えていた。
そこで、美由紀の両腕が源

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第二十三話 異形その十一

「よいな。人としてな」
「わかった。それではな」
「うむ」
 こう言葉を交えさせて部屋を後にした。それからサイドカーで道を走っているとだった。その横にあの老人がいるのに気付いたのだった。
 そこに近付きサイドカーを彼の前に止めた。すると老人が彼がヘルメットを脱ぐよりも早くあの穏やかな声を彼に対してかけてきたのであった。
「お久し振りです」
「貴様に会うのは確かに久し振りだな」
「いや、お元気だとは聞いていましたが」
 穏やかな言葉は続く。まるで世間話の様なものが。
「実際にこの目で見てみると話以上ですね」
「幾つの目で見ての言葉だ?」
 ヘルメットを脱いだ牧村はこう彼に問うてみせたのだった。
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「その言葉は。幾つの目で見ての言葉だ」
「二つと言えば嘘になりますね」
 老人はその穏やかな笑みをたたえたまま述べてみせたのだった。
「それは」
「そうだな。貴様の目は無数にある」
「実のところ私自身幾つあるのかわかりません」
 彼自身もだというのである。
「果たして幾つかは」
「わからないというのか」
「百となっていますがそれより多いかも知れません」
 これが彼自身の言葉であった。
「果たしてどの程度なのか」
「そうか。そこまでなのだな」
「それにです」
 老人はさらに言葉を出してみせてきた。
「多ければ多いだけ有り難いものでもありますし」
「多ければそれだけか」
「あらゆるものが見えますから」コーチ ショルダー
 だからだというのであった。彼自身の言葉によればだ。
「いいものです。そう」
「そう?」
「もう一人来られましたね」
 ここでこんなことも言ってみせてきたのであった。
「見えていますよ」
「わかっていたか」
 牧村から見て右手、老人から見て左手に彼が来ていた。今は黒いジーンズに皮のジャケットというワイルドな格好の彼が歩いてきていた。
「私のことは」
「何しろ無数の目がありますので」
 顔だけは穏やかにその彼、死神に対して返す老人であった。
「見えますよ。しっかりと」
「そうか。見えていたのか」
「いや、これで二人と二人です」
 老人は牧村にとっては奇妙なことを告げてきた。
「有り難いことです」
「二人と二人だと」
 牧村はその奇妙な言葉の意味をすぐに察した。
「つまり貴様だけではないか」
「はい。もうすぐ来られます」
 道の端に立ったまま話す老人だった。牧村はその正面にサイドカーを後ろにして立っている。死神は今は何も連れてはいない。
「もうすぐ」
「あの男か」
 死神は彼の言葉を受けて言ってきた。
「あの男も封印から放たれ出て来たのだな」
「左様です。さあ来ましたよ」
「百目か」
 二メールはあろうかという男であった。彼が牧村から見て右手、死神から見て正面に姿を現わしてきた。ビル街を横にして後ろに長い道を置いた男は漆黒の肌を持つ筋骨隆々の大男であった。
「久しいな。元気そうだな」
「おかげさまで」
「貴様も魔神だな」
 牧村はその黒人の大男を見据えて述べた。彼は白いティーシャツに青いジーンズというラフな格好だ。そこにその巨大な筋肉が露わになっている。

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第八話 芳香その四

「京都なんか。この神戸だって大阪だって美味しいものは安くてすぐに手に入るんだから」
「その通りだ」
 暫く沈黙していた牧村がここで再び口を開いたのだった。
「俺も。京都には興味がない」
「そういえばあんた京都のことは話さないわよね」
「ああ、そうだよな」
 母も父も今そのことに気付いたのだった。
「それよりも大阪よね」
「それとこの神戸だよな」
「飾った場所は好きじゃない」
 彼はこうも言うのだった。確かに京都という街は
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エルメス飾った場所ではある。古都というせいであるがそこには気位というものが存在している街なのだ。
「だから。大阪がいい」
「それかこの神戸ね」
「東京はもっと嫌いだがな」
「東京なんていい場所一つもないじゃない」
 未久が兄に続く形でばっさりと切り捨てた。
「食べ物はまずいし寒いし」
「その通りだ」
「そこにいくとこのお豆腐なんて」
 未久は話しながらその豆腐をまた食べる。
「美味しいわよ。京都は好きじゃないけれど」
「幾らでも食べられるでしょ」
「うん」
 母の問いに今度は満面の笑顔で答えるのだった。
「何かどんどん食べられるわ」
「それが京都のお豆腐なのよ」
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「まあそのうちわかるわ。京都の料理はね」
 話は京料理に関するものになってきた。
「素材を生かして」
「素材を」
「そして香りも楽しむものなのよ」
「そうなんだ」
「そういうことよ。まあ今はわからなくていいわ」
 こうも言う母だった。
「今はね。そのうちわかるから」
「私が大人になったらかしら」
「そういうことよ。来期はもうすぐかしらね」
「京料理には興味はない」
「あら、素っ気無いこと」
 息子の今の言葉に口を尖らせてみせる。
「そんなに大阪や神戸がいいの」
「お高く止まったのは好きじゃない」
 結局はそこに行き着くのだった。
「だから。京都は」
「まあ食べ物の好き嫌いじゃないからいいけれど」
 こう言って納得はする母親だった。だがその間にも豆腐を食べ続けている。
「それにしてもあんたも」
「そうよねえ。昔から好き嫌いははっきりしてるのよね」
 未久が苦笑いと共にまた述べた。
「お兄ちゃんってね。無表情なのに」
「悪いか」
「少なくとも曖昧なのよりはいいんじゃないの?」
 とりあえず自分の考えを述べる未久だった。
「それは」
「そうか。ならいいんだな」
「完全とは思えないけれどね。まあとにかく」
 彼女はさらに言葉を続けていく。
「最後は雑炊だしね」
「そうよ。卵も入れるから」
 また母が言う。
「楽しみにしておいてね」
「わかったわ。それでデザートは」
「ネーブルあるわよ」
「ああ、それね」
 ネーブルと聞いてまた明るい笑みになる未久だった。
「それじゃあそれ。貰うわね」
「ええ。雑炊の後で切るから」
「わかったわ。じゃあお兄ちゃん」
 また兄に顔を向けて声をかける。
「それでいいわよね」
「ああ、わかった」
 ここでも表情を変えず頷く牧村だった。食べながらその口の中にあるものを感じていた。それは。

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第十八話 道三の最期その十一

「美濃を、そしてさらに多くのものを手に入れ治められる器量がな」
「だからこそですか」
「美濃をですか」
「殿に」
「そうだとな。書いてあるわ」
 こう家臣達に述べたのであった。
「しかとな」
「では殿」
 柴田がすぐに彼に言ってきた。
「これから進撃を続け」
「そうですな、斉藤義龍をです」
「倒しそのうえで」
「美濃を手中に」
「いや、ここは帰る」
 だが、であった。信長は今はそれをしないというのであった。
 そのうえでだ。佐久間と丹羽を見てだ。二人に対して告げた。
「牛助、五郎左」
「はっ」
「何でしょうか、殿」
「殿軍を務めよ」
 二人に告げたのはこのことだった。
「よいな。これより尾張に戻るぞ」
「ですが殿」
「それは」
 今の信長の言葉にはだ。二人も難しい顔でいうのであった。
「早いのでは」
「そう思いますが」
「そうでござる」
 ここでまた柴田が言ってきた。右手を拳にして振るいながらだ。
「ここは一気に美濃をですぞ」
「義龍の兵は一万二千」
 信長はその柴田達に対して義龍の兵の数を述べた。
「少し失っていてもそれだけはあるぞ」
「それに対して我が軍は一万」
 柴田がその数について述べてみせた。
「多少劣っていますがほぼ互角ですな」
「勝てる見込みは充分にあります」
「それでなのですか」
 佐久間と丹羽も言う。
「退かれるのですか」
「この美濃から」
「うむ、そうじゃ」
 強い言葉だった。決意そのものであった。
「ここはの」
「何故でございますか」
 林も信長の今の考えがわからずだ。いぶかしむ顔で問うのだった。
「道三殿から譲られると言われ。大義も得ているというのに」
「そうです。それで退かれるのは」
「腑に落ちませぬが」
 他の家臣達もそれぞれ言ってきた。しかしであった。
 信長はその彼等にだ。こう話したのだった。
「一万二千の兵と戦えば勝っても傷が深いな」
「我等は一万」
「それで勝利を収めても」
「そう仰いますか」
「問題は勝った後だ」
 信長はただ勝つことだけを考えていたのではなかった。そこからもだった。
「傷だらけになった我等を今川が放っておくと思うか」
「あの家がありましたな」
「確かに」
「若し我等の傷が深ければ」
 その時は一体どうなるか、信長が最も懸念しているのはこのことだったのである。
「そこで一気に襲い掛かって来るぞ」
「今川の兵は二万五千」
「それが一気にですか」
「今の一万五千でも劣勢は免れない」
 言いながらだった。信長はあることを考えていた。その今川に対してどう立ち向かうか、必ず来るその時を見据えて考えていたのだ。
 だが今はそれについては何も言わずだ。家臣達に対してその表のことを述べるのだった。
「それで傷を受ければだ」
「ひとたまりもありませんな」
「その時は」
「それに今川だけではない」
 信長は他の家についても言及した。

N7632B-767
chuangchuang11
カカの天下767「前門の妹、後門の姉」

 こんにちは、トメです。

 春も終わり、もうすぐ夏ですね。というより梅雨かな、そろそろ蒸し暑くなってくる頃です。そんな最中……実は僕、少し太りました。
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 なんだかね? 暑くも寒くもない気候だったせいか、食欲が旺盛になってね。や、もしかしたら単純に年齢で太りやすくなってきたのかもしれないけど、とにかくちょっとヤバイ。何キロ増えたか? そんなこと聞くもんじゃないわよ。イヤン。

 というわけで。ぽーにょぽーにょぽにょお腹ポニョ♪ になるのを防ぐため、恥を忍んで僕はカカにお願いした。トレーニングに付きあわせてほしい、と。

 小学生の妹がやっているトレーニングに付き合う……
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「にゃー」

 わかりにくい返事だが、カカは快くオッケーしてくれた。随分とあっさり頷かれて拍子抜けしたけど、とにかくお願いした次の日から運動開始だ。

「んじゃ夕食前に軽く走ろっか」

 カカは学校、僕は仕事。運動できるのはそれらが終わってからになるから、ちょうどいい申し出だった。カカはいつも運動時に着る赤ジャージ姿。僕も奥からジャージを引っ張り出してきて、兄妹そろっておそろいです。

「おっしゃー! 走る前に準備運動! おいっちにー!」

「お、おいっちにー」

 なぜかカカはハイテンション。なんだか嬉しそうだけど……なんでだ。

「あたしが思うに、おにーちゃんと遊ぶ時間が増えて嬉しいのだと見るが、どうだろう?

「……その前に、なんであんたがいるんだろう?」

 僕らに合わせたかのようにジャージ姿な姉が、なぜか当然のように隣に立っていた。いやまぁ、この人は普段着でジャージ着ることも多いんだけどさ。

「弟君が珍しく運動するっていうからさ、あたしも手伝おうと思って」

「いらん、消えろ」

「まぁまぁ、カカちゃんを見てみなよ。姉兄妹三人で何かできる、ってだけで嬉しそうじゃん」

 う……たしかにカカはニッコニコでご機嫌だ。仕方ない、か。

「わかった、邪魔すんなよ」

「大丈夫、ちゃんと手伝うから」

 ランニングで手伝うも何もないと思うけど。

「さ、行くよトメ兄! 私の後ろについて走ってきてね」

「よしきた」

 コースは聞いている。我が家を含めた周囲の住宅街を一周する形で、距離は1キロ程度だ。これくらいなら運動不足の僕でもゆっくりなら走りきれるだろう。優しいコースだ。

「駆け足、すすめー!」

 声にあわせて走り出すカカに続く。お、けっこー速……い……え、ちょ、ちょ――

「だあああああああああああっしゅ!!」

 ズドドドドドドドドドドドドド!! ってなにこの全力ダッシュ!? 駆け足っていうのはもっとゆっくりじゃ――痛っ! 首筋になんか刺さった!!

「ほれほれ、おんしの首にはとっても鋭い爪楊枝が迫っておるぞ。速度を落とせば刺さるぞ。ほれほれ。ほれほれ。はよ行けや!!」

「姉このやろおおおおおおお!!」

 僕は走った。妹を追いながら。姉に追われながら。秒単位で重くなる身体に鞭打って(というか背後から針を打たれてる)なんとか頑張った。通りすがりの人たちは無駄に全力疾走する僕ら三人を不思議そうに見ていたが、そんなことに構っていられない。こっちは必死なのだ。

「はぁ、はぁ、はぁ……ようやく、ゴール」

 フラフラになりながらも、やれる限りの速度で走りきった……

「もう一周!」

「待てやボケ妹!! お、おま、いつも、こんな、走り方、してんのか!?」

「ゼーハーゼーハーゼーハー!!」

「おまえも必死じゃないかよ!!」

「や、あの、ね? はぁ、はぁ、いつもは軽いランニング、なんだけど、なんかテンション上がっちゃって、つい、はぁ、はぁ」

 結局、姉以外は疲れ果ててしまったのでその日の合同トレーニングはお開きとなった。カカは夕食後には回復して筋トレしてたけど、疲労困憊の僕はとても付き合えなかった。

 

 そして翌日。再挑戦だ。

「うし、やるかぁ! オレ、あんまりこの辺は詳しくねぇから案内頼むぞ」

 なぜかテンが参加していた。最近体重が気になっていたのは僕だけじゃなかったらしい。

「おっけ! じゃあテンカ先生も私に続いて走ってね」

「カカ。わかってると思うが、くれぐれも昨日みたいなダッシュはするなよ」

「わかってるよん。アレ私も疲れたし」

 だよな。

「あたしは疲れないよ?」

「あんたは何しても疲れないだろが」

 あとはこのバケモノがまた変なことしないように祈るだけ。

「じゃ、行くよ。駆け足、すすめー」

 よし、カカも今度はゆっくり走り出す――

「だあああああああああああああああっしゅ!!」

 わけがなかったあああああああああああああ!!

「ふほほほ! おんしら二人の首筋には今宵も鋭い爪楊枝が迫っておる、ほれほれ、はよ走れや!!」

「姉このやろおおおおおおおおおおおお! 妹このやろおおおおおおお!」

「痛っ! 痛ぇって! な、なんだコレ。おいコラ、うおおおおおおおおおおおお!!」

 前方を突っ走るカカを追い、二刀流を器用に使いこなす姉に追われ、テンも一緒に再び全力疾走をすることになりましたとさ。

 そしてゴール。死にそうです。

「はぁ……はぁ……おかしいな、日本語通じてなかったのかな、カカ」

「なんにせよテンションが上がっちゃって……ゼーハーゼーハー」

 テンは声をかけても返事すらしなかった。



 さらに翌日。

 すでにテンの姿はなかった。曰く、「てめぇらアホだからもうヤダ」だそうだ。  

「カカ……わかってるよな?」

「当たり前だよ。私とトメ兄の仲じゃん? ツーカーだよ」

 すごく嫌な予感がする。

「行くよ。駆け足、はじめだああああああああああああああああっしゅ!!」

「ふほほほほ! 今宵の爪楊枝は一味違うぞえ! さっき使ったから」

 もうツッコむ気も起きない。ヤケになってマジメに走ってやった。

 おお、もしかしてスパルタで慣れたのか? 身体が軽い、走れる、僕は走れる! カカよりも早く、疲れずに、この距離を全力で走りきれるぞ!!

 と、思えたのは最初の三十秒だけでした。

「死ぬ……」

「とにかくテンション上がっちゃって。あはは」

「なんでおまえは慣れてきてんだ!? ゼーハーゼーハー!!」

 子供の成長とは恐ろしい。

「なんで疲れてるの?」

「バケモノは口を開くな!!」



 もうカカと走るのは止めた。

 でも……なんか痩せた。



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 べ、別に私が太ったからこんな話書いたんじゃないんだからね!!

 まぁ、でも八割実話でできてます。

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